ライブに人を集めるのは難しい。
人が集まるかどうかは水物、実際にライブがはじまる直前までわからないもの。ましてやこれが『ジャズ』や『ブルース』となるとなおさらだ。
当事者としてはこんなにいい演奏、パフォーマンスを間近で、それなりに雰囲気のある会場で観ることができるのに何で人が集まらないの?とか思うのだが、お客様からしてみればそれがクラプトンやベックだったとしても、口では行きたい、と言っていたってその時の状況や気分、仕事や懐の様子、はたまた家族の事、友人からの誘い、等々様々な理由でいけないことも多いのだ!これはしょうがない!
でも、日本で本当にいいミュージシャンが育つ、生まれる為の一つにはミュージシャン自身の精進は当然だろうが感性豊かなオーディエンスが沢山いて、将来有望なミュージシャンをオーディエンスとしてサポートしてあげることが大切ではなかろうか。
特定のミュージシャンを見つけて毎回その人のライブを見に行くのも良いし、そうでなくてもいろいろなライブに足を運びその日その時のミュージシャンたちに様々な形でリアクションしてあげることがミュージシャンたちの励みにもなるしポジティブな想像力を育む要素にもなるのではなかろうか。
今、音楽の世界は10年前と比べると大きく変わってきている。レコードやCDのメディアから音楽データに変わりスマホや携帯音楽プレイヤーの普及でどこでも音楽を聴くことができる。スポティファイなどの楽曲配信やYouTubeで気軽にどんな音楽も安価に手に入れることが出来る。
このような状況において、音楽へのかかわり方も人それぞれ全く違くって来る。
しかしライブだけはそんなに変わっていない。ライブハウスなどの「箱」やハード面の変化や進化はあるが、基本的にミュージシャン側から考えるライブの形やオーディエンスが求めるライブの楽しみ方、それは細かく言えば変化してきているかもしれないが、実際昔と比べてそれほど変わっていないような気がする。
そしてこれほど手軽に音楽が聴ける環境になってきているにもかかわらずライブの数は増えているように思う。いわゆる『箱』もライブハウスだけではなく、今やカフェやバー、レストランなど至る所で様々なライブが行われている状況である。
これはもう、ミュージシャンが自分たちの音楽をダイレクトに人に届ける、みんなに自分たちの音楽を知ってもらう、はたまた、(下衆な話ではあるが)金を稼ぐ、手段としても(有効かどうかはともかく)もうライブしかないのではないか?
そう、巷ではフェスも大盛り上がり、いろいろなミュージシャンが来日するし東京にいればかなり楽しいライブを見る事ができる環境だが、でもそれはかなりメジャーなミュージシャン、もしくはレジェンド、と呼ばれるようなベテランミュージシャンにある程度限られてくるような気がする。
昔のようにメジャーレコード会社でもある程度『投資』と考えて一般受けしにくいミュージシャンを発掘する、育てるという環境は、もう今や無い。詳しくは知らないが、CDなんか5000枚は売れないと扱ってくれないのではなかろうか?そして5000枚くらい売れたぐらいじゃミュージシャンも食っていけないよね。
はたまたインディーレーベルから火がついてメジャーになっていく構図ももうない。もうCDなどのメディアが売れないんだからしょうがない。
となると無名のミュージシャンたちが自分の音楽を人に届けて、しかも稼ぐ、となるともうライブしかないのだ。逆にライブがよくなければ人に音楽を届けることも金を稼ぐこともできない。
でも、ライブができる環境は充実してきている。演奏形態に多少の制約はあるがライブができる場所は昔より増えている。あとは人が集まるかどうかだ。
コンサート会場やライブハウスではない、小さな飲食店などでのライブは特別だ。ミュージシャンとお客様、そしてその店の持つ雰囲気が相まって一つのライブが出来上がる。ミュージシャンのプレイの質は当たり前に重要だが、お客様と店がつくるその日その時しかないスペシャルな時間と空間がそのライブを特別なものにしてくれるのだ。
どうか一度このような小さなお店でのライブを体験してほしい。
ミュージシャンはその『箱』が大きかろうが小さかろうが絶対手を抜かない。お客様が多かろうが少なかろうがそのパフォーマンスが下がることはない。(少なくともMojo Caféでのライブはすべてそうだった)ミュージシャンは1メートル先のお客様に向けて演奏する。すぐ目の前で渾身の演奏を観ることが出来たらなんと素敵な事ではないだろうか。
こんな風に音楽を、ライブを楽しむオーディエンスが増えたら、きっとミュージシャンたちの創作意欲やパフォーマンスの良い刺激になるのではないか。そうすればまた僕たちは更に良い音楽や演奏を楽しむことができる、好循環だ。そしていつの日か自分の好きなミュージシャンたちの音楽がもっとたくさんの人たちの手に届くようななったら、とても素敵な事ではないだろうか。
音楽に対して特別な思い入れがある人は当然だが、特にそうでない人も音楽が嫌いでなければ是非機会をつくって小さなお店のライブに足を運んでいただきたい。きっと、思いもしなかった『特別な何か』を得ることができるかもしれない。
ジャズ・ギタリスト 岸本賢治
MASATO TRIO
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